Ironic Secrets (1/2)
庭園での食事の後に、殿下を客室に案内する為、城内の廊下を歩いていた。 ふと、思い付いた事を提案した。
「殿下。思ったんですけど、私、攻められるのには弱いのですが、こちらから攻める分にはいけそうなんです」「セレスティアナ。急になんの話だ?」
「私から殿下に触る分には可能と言う事です。よろしいですか? その間、殿下からは私には触れません、目も閉じていただきます。側近は一人を残して部屋から退出させて下さい」
「え!? セレスティアナから俺に、さ、触る!?」「しー! お声が大きいですよ。私の両親や城の者に聞かれないように」「す、すまない……」
「人に見られてると私も恥ずかしいのですけれど、流石に目も閉じて無防備になる殿下もたった一人にされるのは不安でしょうから、お一人だけ騎士を残して下さい」
「目を、閉じなければならないのか?」「はい。拒否ならスキンシップ……いえ、触れるのは無しです」「わ、分かった、エイデンだけついて部屋に入れ」「部屋の外なら扉前でも廊下でも大丈夫です」
私はにっこり笑って、殿下の泊まる部屋に殿下とエイデンさんだけ連れて入った。
「では、殿下、そこのソファに腰掛けて目を閉じて下さい。私は隣に座ります。エイデンさんは、私の視覚に入らないよう、私の背後あたりにどうぞ」
「はい」
エイデンさんは了承しつつも、一体何をするつもりだ? って訝しげな顔をされたけど、気にしないようにする。
まず、私は殿下の銀糸で編んだようなサラサラの髪に触れて、頭を撫でた。 お母様が亡くなってから、こんな風に触れて来る人もそうはいないだろう。
「こ、子供扱いか?」 目を閉じたまま殿下が不満げに言う。
「そう思いますか?」 次に殿下の背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。 温もりが伝わるくらいに、しっかりと。
「……!?」「はい。ぎゅー……」
「やはり……子供扱いか?」「温かいでしょう?」「……た、確かに、温かいが……」
殿下は今、されるがままなので口しか出せない。 エイデンさんは邪魔しないように気配を殺し、沈黙している。
次に抱擁を解いて、片手を殿下の太ももの上に置いた、殿下の体がびくりとする。 ここから触り方を自愛モードからドキドキモードに切り替えますよ。
「お、おい……?」 殿下の顔に赤みがさす。 次に私はもう片方の手で優しく、頬を撫でる……。
「……?」 すべすべの頬を撫でた後に、人差し指の腹で殿下の唇に、そっと触れた。
「……!?」 唇の輪郭をなぞるように触れ、今度は親指や人差し指で優しく下唇をふにふにと触る。
「…………!?」 殿下は頬を染めて、混乱している。
次に一旦指を離してから、指2本、人差し指と親指の腹で唇にそっと触れる。「……っ!?」
目を閉じているから、まるでキスでもされたかのように錯覚するかもしれない。 触っているのは、ただの指なのだけど。
「はい、終わりです。もう目を開けても良いですよ」「な、今のは……?」
殿下は私に完全に翻弄されて、真っ赤になっている。 前回手へのキスを思わず拒んでしまったけれど、私の指が貴方の唇に触れるという所は、同じだったでしょう?
「では、晩餐まで自由に過ごして、ゆっくり休んでくださいね。前回お忘れになった室内用のお靴は洗ってそこに置いてあります」
「あ、ああ、ありがとう。……え?」 殿下が混乱したままだけど、私はそのまま客室を退出した。
* *
〜ギルバート殿下の側近、騎士エイデン視点〜
「な、なんだったんだ? 俺の唇に触れたのは何だったんだ?」 殿下は一人だけ部屋に残っていた俺に答えを求めたので、見たまま、ありのままを伝えた。
「指です」「指……か?」「確かに触れていたのは令嬢の指でした」「はあーーっ」
殿下は大きく息を吐いて、思わずといった風に顔を覆った。 そのままソファの背もたれに身を預けるように倒れた。
「殿下、大丈夫ですか?」「最初は指で触れていたと思った。でも、しまいには、キス、されたのかと……」
殿下は微かにプルプルと小動物のように震えている、余程衝撃的だったのだろう。