no more: the end (1/2)
『……未咲、久しぶりだね』「雛夜さん」
遠慮がちな雛夜の声を聞いて、未咲は鼻の奥がつんとした。溢れそうになった涙を拭って笑う。
「一緒に旅しましょうね」
時を越えて出会った雛夜との約束を守れる。未咲にはそれが心の底から嬉しかった。雛夜もそう思ってくれているだろうと期待して彼女の返答を待つ。しかし、訪れたのは沈黙で、穏やかに大地を撫でていく風の音が未咲を気恥ずかしくさせた。
「え……え!? あの、楽しみにしてたのってわたしだけですか!?」
ふっ。 小さく吹き出す音が聞こえて、未咲は茫然と口を開けたまま雅久を見た。雅久は口元を抑え、ぷるぷると肩を震わせている。
「が、が、雅久ー!」「いや、その、すまない。ふ……いや、か、可愛いなと」「嬉しくないです」
未咲はぶすっと唇を尖らせた。嘘、すっごく嬉しい。そう内心思いつつ。
『あー……何て言うか、敵わないなって思ってただけよ。あんたって心底バカよね』
気まずそうに口を挟んできた雛夜の声には、隠しきれない喜びが滲んでいた。
「えっ」『だってあたし、あんたのことを殺そうとしたし、雅久にも酷いことしたし……普通、そんなこと言える? 未咲も雅久も、本当にバカだわ』「二回目……」「俺もか」「似たもの同士じゃのう」
太陽の下に、いくつもの笑い声が響いた。<ruby><rb>一頻</rb><rp>(</rp><rt>ひとしき</rt><rp>)</rp></ruby>り笑い合って、未咲はふと雅久の目を見つめた。鬼となった雛夜や霊たちは雅久に宿り、イザナミは雛夜たちから離れ黄泉の国へと戻った。雅久は鬼から解放されたのだ。けれど、雅久の蛇のような金色の瞳はそのままになっている。呪いは解けなかったのだろうか、と未咲は眉尻を下げた。 雅久は未咲の様子に気付き、<ruby><rb>眦</rb><rp>(</rp><rt>まなじり</rt><rp>)</rp></ruby>を下げる。
「これは雛夜や霊たちとの絆の証だよ」「……でも、その」「普通の人間とは違うままだけど、未咲と一緒に居て良いだろうか」
未咲は目を見開き、それから小さく息を吐いてゆっくりと顔を<ruby><rb>綻</rb><rp>(</rp><rt>ほころ</rt><rp>)</rp></ruby>ばせた。
「もちろんだよ、雅久」「ありがとう」
雅久は嬉しげに頬を上気させて微笑んだ。